矢木沢ダム・奈良俣ダム冬季見学会
矢木沢ダム・奈良俣ダム冬季見学会

陸の孤島。

長い通廊をひたすら歩いた。10分、15分と。
少しの蛍光灯の灯りを頼りに、いつ終わるかはっきりしない中を歩く。
それでもこの後目の当たりにする光景を思い描けば苦しくなかった。
黙々と足を前へ、進め。

陸の孤島に着いた

遂に着いた。矢木沢ダムだ。
廊下の窓から見えるその後姿に胸の鼓動が高まるのを抑え切れない。
管理所の方からダムの概要の説明を受ける訳だけれど、もう心はすぐそこにある見慣れぬ姿の矢木沢ダムに奪われっぱなし。
ごめんなさい。

ドローン出現

と、ここで世間で話題のドローンが出現。
しかも水資源機構仕様のハンドメイドロゴ入り。これだけで3割くらいカッコいい。
ドローンを暫く観察した後、いよいよ矢木沢ダムの側へ。
歩き出すとまず目に入るのは、試験放流ですっかりお馴染みの洪水吐。冬は雪の下にその姿を隠している。 スキーで滑り降りたくなってしまうのは夏も冬も変わらない。

すっかり雪に埋もれたダムサイトを歩くと、いよいよ矢木沢ダムが目の前に近付いてきた。
積雪が欄干をゆうに超えていて、今回の為に欄干ぎりぎりの所を除雪してなんとか見学スペースを確保している。
それでも人力では地面まで除雪できないので、安全のために1度に2人くらいずつの交代でダムを愛でると言う流れになった。
何もかもが普通じゃない。

夏の同じ地点の画像を見ればどれほどの積雪かが少しは伝わるだろうか。
本来であれば大人の胸辺りまでは高さのある欄干が、除雪してある今でも腰辺り程度までしか来ていない。

胸の高まり

いよいよ自分の順番が来た。雪の山を少し降りて欄干に身を委ねる。

言葉にならなかった。
ひたすらカッコ良かった。
雪に包まれてより力強いとか、ワインのレビューの様な流暢な言葉遊びなど思いつかない。
目の前にあるこの光景にただ飲まれて、無言になるだけだった。
雪景色のアーチダム自体そう遭遇はできないと言うのに、矢木沢ダムの雪景色が目の前にある。
本当に嬉しかった。
めっちゃいいよこれ。本当に見て欲しい。

下流側を眺めても上流側を眺めても、どこまでも続く雪の世界が広がっている。
そして上流の山を越えればそこは越後が待っている。
ダムの絶景も勿論目を奪うには十分過ぎるが、この奥地の繰り出す景色も非日常だ。 つまり、目に入る全ての景色が驚きと感動の対象になり息つく暇もない。
夢中でファインダーから白い世界を眺め、そして瞳から精一杯情報を取り入れるのに必死だった。

矢木沢ダム管理事務所の方を眺めると、こちらもまた記憶にない景色が広がっていた。
全て雪に埋め尽くされている。ここの支配者は雪なのだろうか。 自然の美しさと強さがここには同居していた。
天端に目を移すと、風の道が雪によって姿を現していた。自然の産み出すアートとはよく言ったものだ。

さいごのデザート

ずっとこの場に居たい思いで胸がいっぱいだけどそうも行かない。(それでも、比較的のんびり見学させて貰いました)
最後にクレストゲートの巻上機室を見学させて頂いた。 非常用洪水吐のゲートなので使わない事が基本となるゲート。近年は初夏に行われる試験放流に使われる以外にはまず稼働していないが、恐らく放流を伴わないゲートの稼働試験は 定期的に行われているだろう。
ダムの運用管理の観点からすると、このゲートが洪水調節時に活躍する事はできるだけ無い方が良いのである。 そんな巻上機室は外部空間とある程度繋がっているので、どこからとも無く冬の使者が舞い降りちゃっかり積もっているのであった。

矢木沢ダム・奈良俣ダム冬季見学会

別れ。

後ろ髪を引かれつつ、去り際に矢木沢ダムのフィルダム部分を横目に来た道をひたすら戻った。
往路とは違い、胸の高鳴りの無い道中は少し寂しかった。
もう次は無いかも知れない、その思いが後ろ髪を引く力を強くした。 でもまだ、今日は次がある。次は奈良俣ダムが待っている。