閉ざされし世界へ。
冬の矢木沢ダムを見たい。
そう思う人は少なくないだろうし、俺もその一人だった。
矢木沢ダムまでの道は冬季閉鎖され長い閉塞の世界となる。
だから見ることなど叶わない、夢の存在の様なものだった。
ところがある日、突然そんな夢を実現できるかも知れない知らせが入った。
■矢木沢ダム・奈良俣ダム冬期見学会の参加者募集について
このプレスリリースを目にした時は目を疑った。
あの夢にまでに見た場所へ行ける。
応募しない理由など無く、迷いもなく応募していた
いざ行け、昭和。
真冬の5A.M.
まだ闇が支配する道の駅おおたで休憩。つまり夜。
今回はのんびりと有料道路を使わずにスタート地点に向かう事にした。
夜のドライブは何度味わっても飽きない…睡魔が襲って来なければ。
上武道路をひたすら北上し、やがて途切れるとそこはもう赤城山に抱かれた地。
このまま向かっても少し早過ぎる…と言う事で真壁ダムに少しだけ立ち寄ってみた。
貯水池が空っぽと言う情報を思い出したのでね。
行ってみると確かにそこに水は無てく、とても新鮮な光景だった。
「本当に空っぽだ」という内容の薄い感想だけど、本当に空っぽだった。
真壁ダムに訪れた際には、ダムから続くこの水圧鉄管も忘れずに見学してみて欲しい。
住宅街を水圧鉄管が突っ切り、道路が潜り、分かっていても思わず声を上げてしまう。
もちろん、佐久発電所やサージタンクも一緒に。
あのダムへ。
今日のスタート地点である水資源機構 沼田総合管理所に無事到着し、そのままバスに乗り込み出発。
申し合わせた訳ではないのに殆ど顔見知りばかりで、仲間を集めた見学会みたいでちょっと気が楽だった。
あの矢木沢ダムと奈良俣ダムに厳冬期に降り立つ事ができるという貴重な機会だけに、さぞ応募が多く
抽選だろうと思ったが今回に関しては幸いにも杞憂だったらしい。
関越自動車道を水上ICで降り水上駅からの参加者と合流したバスは、まずは須田貝ダムに立ち寄る。
さてどんな様子なのかな…とワクワクしながら周りを見渡したんだけど、夏でもそう良く見えない須田貝ダムが冬は雪に阻まれて一層見えない。
うーん良く見えないなーと言う消化不良感があったけれど、一面の銀世界とまだ見ぬ矢木沢ダムに思いを馳せ既に気持ちも盛り上がっていた。
須田貝ダムから先は矢木沢ダムの管理用道路に入る。ここから先の除雪は東京電力が行っているそうな。
除雪も最低限しか行われないので、車窓の景色は延々と迫り来る雪の壁が続いた。
管理用道路に入って少しすると、須田貝ダムが見下ろせる地点に着いた。
けど、ここでも雪に阻まれて良く見えない。春の写真と比較しても、せっかく冬で落葉しているのを相殺するかの様に
無情にも積もる雪が視界を遮っているのが分かる。積雪と言うより、除雪された雪。
冬はダムマニアにとっても厳しいものだ…
あまり微笑んでくれないダムの女神に内心ちょっとふくれつつ、またも矢木沢ダムに気持ちを切り替えて
須田貝ダムを後にする。
冬の矢木沢ダムと言うのは水資源機構の職員さんにとってもレアな存在だそうだ。
後でまた出るけど、昔は雪に閉ざされる時期は職員さんがダムで越冬していて、
物資は雪上車でダムまで運搬していたとか。
今では越冬する事も無く、冬場は週に何日かだけ訪れる体制に変化しているそう。
昔の方がワクワクするし面白そうだけど、負担を考えたら越冬なんてしない方が良いよね。
見慣れた場所の、見慣れない景色。
ドライバーの華麗なシフト操作に酔いつつ、見慣れぬ雪景色にも慣れて来たなーと思っていると矢木沢ダム下流に到着。
ここからは徒歩での移動が待っている。
この見慣れた橋も、すっかり雪に埋もれ普段とは違う表情を見せていた。
遠くにほんの少し顔を出す矢木沢ダムに興奮する自分の心を鎮めるのに必死。
”遂に来たんだ!雪の矢木沢ダムに!”
ここから先は徒歩での移動。薄暗い通路やエレベータを通り、まずはダム管理所へと誘われる。
まだかなーまだかなーと長い待ち時間だが、いつも気持ちをヒートアップさせてくれる。
景色も見えない冷たいエレベーターだけど、気持ちはホット。