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ifの世界—原子力発電所が動いていたら

ifの世界—原子力発電所が動いていたら

2022年3月22日、電力逼迫警報が発令されました。

ご存知の通り、日本国内で動いている原子力発電所の数は設備としてあるより相当少なく、東京電力管内においては一切の原子力発電所が稼働していません。そんな状況で困難なシチュエーションを迎えた東京電力。「原発が動いていればこんな事にはならなかった」という発言も見られました。私も言ったかも。

本当にそうだったのでしょうか。「原子力発電所が動いていれば問題なかった」のかどうか、単純な好奇心からブログを書くことにしました。ちなみに私は原子力発電所は早く動いて欲しい派です。原子力、クール。

注意して欲しいのは、先に言ってしまうと一つの結論は無いという事です。電力の供給網は非常に広域で、複雑です。恐らく、単純に「原発の出力ぶんこれだけあれば足りていたじゃん」という話では済みません。多分電力というのはそんな単純な話ではないのではないでしょうか。新鮮な魚なら刺し身で食べ、ちょっと時間が経っているなら煮物にする。紅茶があればクッキーを食べる、コーヒーがあるならドーナツにするかもしれない−−−このように、最初にある材料が違えば、その後のアプローチが違う可能性だって十分にあり得ます。

原子力発電所が稼働しているという条件の場合、そもそも電力の供給方法全般に影響を与えていたと考えられ(原子力発電所が無い前提の供給プランと、ある前提の供給プランが同じだとは考えにくい)、前提条件からして同一ではない可能性もあるのではないでしょうか。

3月22日、東京電力が置かれた状況

どのようにして東京電力は電力供給能力不足の状態になってしまったのでしょう。ここでは、経済産業省のレポートを元に考えてみます。

総合エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第40回)

参考資料1東京電力及び東北電力管内における電力需給ひっ迫について https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/040_s01_00.pdf

上記資料を元に、電力供給の逼迫の原因を見ていきます。

1:供給力の低下

 a.3月16日の地震により発電所の計画外停止により広野発電所110万kW(東北向け225万Kw)が停止

 b.3月17日以降、でんぱつ磯子火力発電所等がトラブルにより134万kW停止

 c.3月16日の地震により東北から東京への電力地域間連系線の容量が半分に(500万kW→250万kW)

 d.冬の高需要期を終えた後の発電所の計画的停止(修繕等)により合計511万kWの発電所が停止

 e.悪天候による太陽光発電の出力大幅減(175万kW)

 等、大きく供給力が低下していて、当日の供給力は4,104万kWだった。

2:需要の大幅な増大

 真冬並みの寒さによる需要な大幅な増大(想定最大需要4,840万Kw-3月の最大需要は4,712万Kw)

以上を非常に雑にまとめると、「供給力が複数要因により低下している状態で、この時期としては非常に大きな需要が発生してしまった」という事になります。それだけではあまりに簡単過ぎるので、もう少し深く考えてみましょう。

そもそも、地震が無かった場合の需給バランスはどうだったのでしょうか。単純に計算してみると、

3月22日の供給力:4,104+110(広野等)+134(磯子等)=4,348万kW

となり、供給力不足になる計算です。計画的停止が無くても供給力は不足していた可能性が高いのではないでしょうか?恐らく、他社からの電力融通は実施されていたと考えられる状況です。そもそも用意していたものが少なすぎたのです。

では、地震が無く、更に原発が動いていればどうだったのでしょうか。

3月22日の供給力:4,104+110(広野等)+134(磯子等)+575(柏崎刈羽)=4,923万kW

柏崎刈羽は全発電機出力の7割程度としました。発電機の沢山ある発電所って定期点検なんかもあって全て同時稼働していること、あまり無いような気がするので(違ったらごめんなさい)。これだとようやく、ギリギリですが足りそうですね。こうして見ると計画的停止の511万kWというのは容量としてかなり大きく、原発1箇所ぶん丸々無いような状況です(柏崎刈羽がずば抜けて大きいだけです)。

次に、地震があり、原発が動いていた場合はどうでしょうか。

3月22日の供給力:4,104+575(柏崎刈羽)=4,679万kW

おっと…足りないのでした。もしかしたら、原発がある事で定期点検スケジュールに余裕を持たせる事ができて、もう少し火力発電の供給を上積みできていたかもしれませんが、それにはもっと深い調査が必要です。ちなみに、柏崎刈羽の全発電機が稼働していても4,925kWですから、予備率2%もありません。適正な予備率は8〜10%とされているので、余裕を持って迎えられる状況ではない、危ない状況です。(参考:中部電力 電力需給状況Q&A)

ここまでの話をまとめると、「原発が稼働していても、地震による計画外停止の多発と季節外れの寒さと悪天候が重なった場合の電力需要は逼迫していた可能性がある

しかし東京電力では、福島第一(470万kW)、第二(440万kW)原子力発電所を本来持っていたことを考えてみましょう。これらの出力、合計930万kWもの力を失っている事を忘れてはならないでしょう。福島の2原発と柏崎刈羽を合計すると1,731万kWにも上ります。おや、福島の2つの原子力発電所があるとようやく安定的な電力が確保できていた雰囲気が出てくるのではないでしょうか?今までの式に当てはめてみましょう。

3月22日の供給力:4,104+575(柏崎刈羽)+330(福島第一)+308(福島第二)=5,317万kW

これまでと同じく7割で計算しても、予備率を10%近く確保でき健全な受給環境を確保できる計算です。なんだか当たり前なんですが、福島第一原発も第二原発も必要だからあるんですね。こんなにとても雑な計算ではありますが、不測の事態があってもきちんと東京電力管内の電力を自分たちで賄えるようになっていたんですね。

発電施設は何度か書いた様に定期的な点検が必要で、持つ設備全てが同時稼働するという状況は現実的に存在しません。そして今回の様に自然災害による突発的な停止もあり得ます。そうした不足の事態があっても、安定的に(節電をお願いする必要なく)電気を供給できる体制がきちんと用意されていたんですね。安定的な電源確保をしてくれた先人に感謝しなければなりません。

こんなに大きな電源たちが失われた状態で、何をのんびりしているんだろう。私達は…。

では東京電力から失われた1,731万kW(うち930万kWは永遠に)はどのように代替されているのでしょうか。

それは火力発電です。

2020年度 東京電力の電源構成

出典:東京電力 電源構成より(https://www.tepco.co.jp/ep/power_supply/index-j.html)

電力会社は、原子力発電所の分を補うために、火力発電の焚き増し等をずっと(東日本大震災以降)しています。温室効果ガスを減らさなければならないと言っている世界で、8割火力発電なんですよという整合性が取れない状態です。火力発電に頼り切りという状態は他にも色々問題があると思いますが、その話題は割愛します。

結局、柏崎刈羽原子力発電所が稼働していても電力の逼迫は起きていたかもしれない。東電の本来の姿(って何なんだという感じですが)である福島第一、第二原子力発電所も稼働した状態であれば問題は無かった。という事にここではなりましたが、実際の電力供給システムは最初に書いた通り複雑です。「どうすれば太平洋戦争が起きなかったか」のディスカッションほどでは無いかもしれませんが、沢山の要素を考慮して論じなければならない話題だと思います。簡単に一つの解を出せるような話題ではないというのが私の考え方です。もっと広く様々な要素を取り入れて考えたら供給力に余裕があったという答えだって出てくるかもしれません。そういう検証を誰かやってくれないかな〜。

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